ダムのほそ道

広島県内(とその近県)のダムの訪問記録です。

広島100 柚の木(ゆのき)池

2022年春に広島県内のダム便覧掲載ダムを全踏破してから、次はダム便覧に掲載されていないダムを巡る、と宣言しておきつつも、1基しか行っておりませんでした。

どうしてもため池ばかりになり、訪問しやすい季節が限られるのと県外には訪れたい大きなダムがたくさんあったのとで後回しになってしまい。。。

…というわけで、久々に近場の新規ダムです。
最初は、福山市高西町川尻にある柚の木池です。(2024.2.11訪問)

堤高15.5mの灌漑用アースダム。とはいっても堤体は表面がコンクリートで固められています。2022年撮影のストビュー画像ではまだ土なので最近施工されたのでしょう。

下1.5mは石積になっています。

底樋出口工と思われます。河川は暗渠になっているようです。
堤体の上に上がってみますと・・・

天端の上流側に水がありません! というより、そもそも池にすらなっていません。

池のあるはずの場所がグランドに!?
・・・といってもこれは、Googleの空撮画像で予習済み。

このように元の池の2/3ほどが埋め立てられてグランドになっているのです。

国土地理院の過去の空撮画像では、2013年(左)ではまだ池がありますが、2016年(右)は埋め立てられているので、この間に埋め立て工事が行われたようです。

一応、上流面、ということになります。コンクリブロックで覆われています。この間に西日本豪雨がありましたが、色が変わっていないので、常に水位は低いままなのでしょう。

小さいながらも洪水吐。

底樋への取水口。石を積んで土砂の流入を防いでいます。

斜樋などは見つからず、灌漑用としてどの程度使われているのか不明。

天端から下流を見渡す。農地はほとんどなく、灌漑用というより洪水調節用の調整池になっているのではと思われます。

古くからのため池では時々見かける祠。かつてここがため池であったことを知らせてくれます。

この柚の木池でもって、広島県内の訪問ダムは100基となりました!
遠方ばかり行くのは時間もお金も大変になってきたので、ぼちぼち近場も開拓していきます。

 

近畿3 立ヶ畑ダム(兵庫県)

せっかく神戸に来たので、もう1基行けないかと訪れたのが立ヶ畑ダム。(2024.2.9訪問)


立ヶ畑ダムへの最寄りは、市バスの夢野町2丁目か石井橋ですが、慣れない街で路線バスに乗るのは億劫だったので、地下鉄の湊川公園駅から約2km歩きました。

上水目的、1905年竣工の日本で4番目に古い重力式コンクリートダムです。

布引五本松ダムにはなかったクレストとローラーゲートが設けられています。アーチとゲートの錆び具合がいかにもレトロでいいですなぁ。

微妙にカーブしている堤体。でもアーチ式ではありません。

天端も歩ける親切設計。地元の方が何人かウォーキングしていました。

烏原貯水池。布引五本松ダム竣工の1年後には建設が始まっており、いかに当時の神戸への水の供給が急務であったかが分かります。

神殿みたいな取水設備。機能的には全く必要ないだろうが、こうしたデザインを施すところに意気込みを感じます。

ちなみに「養ひて窮まらず」と読み、中国の古典からとったもの。ドアの紋章はなんだ?

下流を見下ろすと、何やら迷路のような減勢工が。

石積の堤体。布引…のような歯飾りはないが、クレストのアーチがかっこいい。しかし、残念ながら正対できるスポットは立入不可。

そのかわり右岸側では堤体に触れることが可能。しばしひんやりした石に手を当てて120年の歳月を感じていました。

このダムも近代化産業遺産に登録されています。

ダムの下流側を散策しているとかつて使われていたダム下へ通じる橋がありました。この橋も近代化産業遺産。現在は渡ることはできません。

さてさて、今回は布引五本松にしても立ヶ畑にしてもかなり歩き回って、11時半にしてお腹が空いたため、立ヶ畑ダムから下りた所の「わ河馬」で淡麗塩チャーシュー麺をいただきました。あっさりしたスープにコシのある麺が美味!

ということで、この日の神戸でのダム活はここまで。午後からは別の用件でまた歩き回りました。。。

 

布引五本松ダムへの道

ところで、新神戸駅から布引五本松ダムに向かうハイキングコースの道中には、いろいろ興味深いものがありましたので、ここに記録しておきます。

ハイキングコースは新神戸駅の1Fから効果の下をくぐり、駅の北側に出たところからスタートします。人口150万の都市の新幹線駅近くとは思えないひっそり感。

スタートするとすぐに明治30年竣工の水道橋、砂子(いさご)橋を渡ります。レトロなレンガの高欄にこの先への期待感が増します。

少し進むと雌滝取水堰堤があります。布引五本松ダムとともに明治33年につくられました。よくみるとアーチ状の出口工が2回に渡って造り直されていることが分かります。
上側3か所の穴は、かつての制水弁からのパイプの跡です。

取水堰堤のそばの施設。ドーム型の石造りの屋根。日本ではないみたい。

所々設けられた落差工も石積。風情があります。


名所の一つとなっている布引の滝。観光客向けに、水量が少ない時は布引五本松ダムから放流しているらしい。それならテーマパークなどの人工の滝とさほど変わらないのでは、と思う自分はひねくれている?

ハイキングコースの舗装の一部が剥げて、埋められているダムからの送水管がむき出しになっています。僕としてはこういうものが見られるのはありがたい。

展望台からの神戸の街の眺め。架線はロープウェイのもの。帰りは乗ろうかと思ったのに2月中旬まで点検のため運航休止とのこと。ロープウェイは眺めが良さそう。

ダム下すぐわきにある、ダムからの放水路。といってもここは天然の岩のまま。溢水した時だけ滝になるので「五本松かくれ滝」と呼ばれる。

ダムへはロープウェイや車でも行けますが、ハイキングコースはいろいろ珍しいものがあるので、可能なら徒歩がお勧めです。(途中に休憩所、トイレもあり)

近畿2 布引五本松ダム(兵庫県)

神戸に日帰りで出かけ(ダムだけが目的ではなく)、前々から行きたかった神戸市内のダムを訪れました。

ダムファンであれば、みな崇める(であろう)布引五本松ダム。(2024.2.9訪問)

1900年(明治33年)竣工、日本で最初につくられた上水目的の重力式コンクリートダムです!

新幹線の新神戸駅の裏からハイキングコースを歩いて到着。

当時の工学大学校(現東大工学部)のバルトンの設計案では土の堰堤になるところを、水需要の急増に対応して、技術師の佐野藤次郎氏が粗石コンクリート積に変更。
120年以上前につくられたのに、阪神大震災にも耐え現在も使われているなんて、当時の日本の技術の高さを感じます。


歯飾りもついて、中世ヨーロッパの城壁のようです。思わずため息。
天端は立入禁止。柵越しに撮影します。

天端をよく見ると補強したりグラウトを注入したりした形跡があります。

震災後、2度にわたって漏水対策や強度補強、土砂浚渫の工事をしたもよう。

上流側の下の方は改修工事により補強されています。もともとの石積の景観にも配慮して工事をしたのだとか。

重要文化財(H10)、近代化産業遺産(H20)に指定され大事にされていることが分かります。

溢水式の放流路もあります。溢水部に架かる管理橋(ハイキングコースにもなっている)には、当初の建設時に使われた物資運搬用のモノレールのレールが使われています。

これですね。約125年前のレール…思わずなでてしまいました。

布引貯水池。いつもなら「コンクリートダムなのにため池規模です」なんてコメントするところですが、歴史の重みを感じずにはいられません。

戦前ダムによく見られる半円形にせり出した取水設備。最初のダムからそうだったのか~。

水没地にあった水車小屋の石臼。もしかしたら江戸時代からあるものかな。

ダム直下の浄水設備。今は使われていなそうですが。
ハイキングコースの途中にはダムからの取水経路が開設されていました。景観維持のため滝の水も少ない時はダムから流しているようです。

ダムから少し下ると100万都市神戸の街を見渡せます。さっきまでダムのあるような山の中にいたのに急に高層ビルを間近に眺められパラレルワールドのよう。

5つの時代に渡って神戸の街に水を送り続けているのですね。脱帽!

ところで、このダム日本最古のコンクリートダムですけど、もう一つ、おそらく日本一新幹線の駅から近いダムではないかと。新神戸駅から天端まで直線で756mです。

(ちなみに山陽新幹線では第2位は新尾道駅~栗原ダムの1502m)

山口17 一の井手ダム

昼食をとって体調も少し回復したようで、これなら予定していたあと1基を巡れそうということで鐘楼亭から来るまで5分の一の井手ダムへ。(2024.1.8訪問)

上水目的のアースダム…ですが、浄水場と一体になっているので立入禁止。

フェンス越しに堤体を見ることができます。堤体にはツツジのような低木が植えられているようです。ダム便覧には堤高21mとあるけど、10mぐらいにしか見えない。

堤体前には貯水槽

浄水場ならではの設備。あまり使われていないような。
実は需要減に伴って、周南市では一の井手浄水場を菊川浄水場に統合が計画されているようです。

何とか貯水池の姿を収めようと、ダム便覧の画像を手掛かりにおそらく撮影場所と思われた、岐山公園からの一枚。左岸にブルーの貯水槽があり、画像右手に取水設備が少しだけ見えます。

池の向こうには、全国有数の規模の徳山の石油コンビナートが見えます。ここから見る夜景も綺麗なんだろう。

戦後の日本の復興と発展を支えてきたコンビナートの街は、地方都市の宿命の人口減少に加えて脱化石エネルギーで岐路に立たされているといえます。

この日巡ったダムは、いずれも工業や上水、発電の需要に伴って竣工されたもの。洪水調節機能を備えているダムがほとんどなので、今後はそうした役割にシフトしていくのでしょうか。

山口16 川上ダム

島地川ダムで体調の異変を感じ、どうしようかと思ったものの、ダム活をやめるほどではないと思い、たとえ帰るにせよその経路にあるのでとりあえず行ってみようと川上ダムを訪れました。(2024.1.8訪問)

洪水調節・工業用水・上水目的の重力式コンクリートダム
ダムに正対して架橋している県道3号から。

これぞ「ダム」というイメージにピッタリの朱塗りのラジアルゲート

天端を右岸から進むとそのまま左岸の管理事務所の敷地に入るつくり。(左岸は公園があってそこで行き止まりです。)

川上ダムは、工業用水の需要増に伴って当初のダムから16m嵩上げされています。旧ダムを取り込む形で嵩上げされているので旧ダムの姿は見えません。

この中に旧堤体があるのか~

上流面。水位が低ければあるいは旧堤体の名残が見えたかもしれませんが。。。

ちょっと日が射して暖かくなってきました。

ところでこのダムの取水設備、え~斜樋ですか!? しかもスピンドルむき出し!
灌漑用のため池ではお馴染みの設備がまさかコンクリートダムに設置されているとは!

ダム下にある接合弁設備。ここから工業用水道として下流に送られます。

ダム下減勢工横の中途半端な庭園?ダム便覧見てもダム下からの画像は無いので行けないんだろうな…。


何か旧ダムの面影はないかと探して見つけたのがこちら。旧ダムそのものではなく嵩上げ工事の際の構造物と思われます。

川上ダムは周南市街地に近く、島地川ダムよりも標高が低いのと、日が射してきたのとで少し体が温まってきました。ただ、集中力に欠け、いつもなら1基で30枚ぐらい写真を撮るところ20枚ほどしか撮れていません。

お昼は温かいものをと、周南市内の鐘楼亭で奮発して天ぷら定食を。味噌汁と茶碗蒸しで生き返る心地がしました。
(蓋を取らずに撮影しているあたり、注意力に欠けていますね。)






山口15 島地川ダム

向道ダムから再びR376に出て島地川ダムへ。(2024.1.8訪問)

洪水調節・河川維持・上水・工業用水目的の重力式コンクリートダムです。
地図で調べると堤体下に行けそうな道はありますが、予習段階のストビューではかなりの悪路の上、進入可能なのか確認できなかったのでやめておきました。

天端は国道376。同じく天端が国道になっている菅野ダムは頻繁に車が通るのに、ここは滞在20分ほどの間に1台通っただけ。

世界初のRCD工法でつくられたダム。RCDとは何ぞやということはダム便覧や先人のレポートに詳しいので省きます。要は工期・コストを削減できたようです。

国営ダムにしては簡素なダムサイト。オイルショックのさなかに建設されていることも影響しているのでしょうか。

漸縮型導流壁は平成ごろから主流になるので、先駆けだったのではないでしょうか。

現代アート!?

左右二方向からの川の合流地点で堰き止める形になっています。

取水設備の黒いフェンスと周りの白とのコントラストがいいです。

レール式のコンテナか何かで浮遊物を引き上げているのではないかと思われます。

ところでこの島地川ダムを歩いているうちに頭痛がしてきました。最初の末武川ダムのときから寒いなあとは感じていたのですが。どうやら風邪を引きかけているようで。
というわけで、ささっと写真を撮って車に乗り込みました。

見落としている物もあったかも、と思いつつ次の川上ダムに向かいます。